農産物で提携する大江町は、山形県のほぽ中央にある。山形市からJR左沢(あてらざわ)線で45分。朝日連峰の麓にかけて広がる果物と野菜の名産地である。生産者の一人、室岡吉蔵さんは、りんご一筋に40年。9年間にわたってりんご部長を務め、大江町のりんご作りの牽引者でもある。そして今年、初の農薬を減らしての実験栽培に挑戦。「継続してできるとの手ごたえは十分です」と、今後の取組みに意欲を見せる。
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農薬を減らす栽培に挑戦
大江町では、生活クラブ組合員の要望を受けて今年度、農薬を減らすりんご栽培の試験区を設けた。
提携するりんご産地のなかでも、市場出荷と生活クラブ向けを分けて栽培するこの試みは、現在、大江町だけで行われている。
紅玉の出荷が終わって間もない10月中旬。
「試験区の紅玉とふじに、8月10日以降、農薬を使わないとした判断の基準は何ですか」
東京・新宿の生活クラブ連合会で大江りんご部部長の室岡吉蔵さんは、連合消費委員会青果部会委員からの質問に、こう答えた。
「初期段階で病気の被害を防げれば、その後の防除を抜いても自然の状態に任せて大丈夫と判断したからです。病気は密度の低いうちに抑えるよう、常に先を見越した防除が大事です。広がってからでは、どんなに農薬を散布しても防ぎきれるものではありません。病害虫は高温多湿の条件下で発生しやすいのですが、その点、今年度は気温が低く、試験区での発生も少ないといういい結果が出たと思います」
そして、散布回数は慣行区より25%少ないことを報告した。
数日後、室岡さんは朝日連峰を望む果樹園で、収穫を1カ月後に控えたふじの葉摘み玉回し作業に追われていた。小高い傾斜地に180aあるというりんごの園地には、約1200本。1本当たり平均120個のふじが、たわわに実をつけていた。
その一個一個を、裏返して太陽に当ててやるのが、葉摘み玉回しである。室岡さんは、りんごの周りに繁る余分な葉を素早く手で摘み取り、くるりとりんごを裏返すと、近くの小枝や葉をストッパー代わりにして回転を止めた。
なるほど半回転させたりんごの肌は、まだ青い。
「色は青くても熟せば食味は変わらないんですが、やっぱり赤くないと、おいしそうに見えないでしょう」
手間と根気のいる仕上げの作業を、妻の正子さんと二人、数日間集中してこなすという。
「りんご作りは、冒険の連続です」 |
| 「りんごの味にも影響する夫婦喧嘩はしません」
そう話し始める室岡さんは、大江町の農家に生まれた。4人兄弟の長男で、中学生の頃から両親を手伝い、ごく自然に農業を継いだと語る。同い年の正子さんと22歳で結婚。以来、母 、長男夫婦に孫3人と8人家族で暮らす今に至るまで、りんごの作業は二人で切り回してきた。
「夫婦喧嘩はほとんどしないなあ。りんごの味にも影響するしね」と笑う室岡さんを、大江営農生活センター園芸課の太田勝志課長が、「夫婦(めおと)りんごだなあ」と評した。
以前は、コメも野菜もつくっていたが、30年前、りんご専業で行くことを夫婦で決断。4人の仲間と資金を出し合い山を開墾したのが、現在の囲地である。
「ふじは昭和30年頃に普及し、私が植えたのは32年頃でした。50年代には、りんご全般の売れ行きが好調でしたね。でも開墾を農協に相談したときは、無謀だといわれましたよ」
その後、開墾事業を成功に導いた室岡さんは、新たな冒険に挑む。
りんご作りを教わっている長野県在住の師のところで目にした、英国産の台木を使う矮化(わいか)栽培であった。
矮化は樹高は通常とあまり変わらないが、枝を張らないので樹間が狭く、作業効率がよいというメリットがある。
「品質のばらつきが少ないし、早期多収の利点がある。生育期間が通常は苗木から収穫まで10年かかります
が、矮化だと5年ですから」
22年前に導入し、現在、室岡さんの園地では70%を占める。次第に他の生産者にも広まっていったという。
りんご部会の主力は60歳代
そして、このたびの農薬を減らしてつくるりんごへと冒険は続く。
「生活クラブの皆さんの熱心な取組みがなければ、大江町でも、紅玉はつくらなくなつていたでしょう。その紅玉もふじも、今年の結果だけでは判断できませんが、減農薬栽培はできると思っています。自信があります。私たちにとってもいいことなんですから」
40年の経験に裏打ちされた室岡さんの言葉にカがこもる。
しかし、「ここ数年、りんごの値段が安くてイヤになりますよ」とも言い、こう続けた。
「りんご部会は180名いますが、主力は60代。後継者となる若手は少ないですね」
かく言う室岡さんの息子二人も長男は地元で公務員、次男は東京で就職と、今のところ跡を継ぐ気配はないのだとか。
「りんごは5月の授粉が終わると間もなく摘果、夏の除草、そして秋は玉回し、収穫と、短い期間に集中してやらなければいけない作業が多く、忙しいばかり。花や実のなる風景を楽しむ余裕なんてありませんよ。冬の間の剪定くらいかな、時間に追われないで出来る作業はね」
だが、そう言う室岡さんの夢は、カメラマンになることだったと話が弾んだ。
「朝日連峰が冠雪して真っ赤なりんごにも雪が積もったときは、素晴らしい景観にしばし見とれていますよ。でも、そんなときに限って、『しまった、カメラもって来ればよかったぁ』なんてことが多くてね」
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提携生産者の素顔 |
1977年、りんごとおみ漬けの取組みから始まったさがえ西村山農協大江営農生活センター(前・大江町農協)と生活クラブの提携はすでに26年を数える。今ではラ・フランス、すいか、トマトなどの農産物、りんごジュースなどの加工品を含め、年間を通じて10種類以上に及ぶ取組みがある。りんごは、大江町では紅玉、ふじ、スターキング、王林など収穫適期をずらして数種類を生産する。
「中でもふじは一般的に味の評価が高い品種で、生活クラブには11月下旬から翌年1月初めに供給しています。今年は天候の影響でやや小玉傾向ですが、いつもと変わらない食味です」(室岡吉蔵りんご部部長)。
大江営農生活センターに隣接する選果場では、5年前に8億5000万円かけて選果システムを新設。目視による選別の後、透過型光センサーにより内部の褐変や蜜の入り方をチェックし、はじかれたものはジュースなど加工用に回される。生活クラブ向けには大きさは無選別だ
が、箱詰めに至るまでオートメーション化されている。
また、同農協女性部の大江支部による農産物の加工所を担当する生活課の村山昌子さんは、「おみ漬にはふじの果汁を加えています。調味料類は生活クラブの提携生産者のものです」と、安全性への配慮と国内自給を実践していると話す。
消費材の特徴
大江町産ふじの特徴について大江営農生活センターの太田勝志園芸課課長はこう説明する。
「日中は暖かく、夜は気温が低い内陸性の気候がりんごに蜜を入れるので、おいしいんです。が、蜜が分解して水分になり、実が褐変してしまうので蜜入りは長期保存が利きません。ですから1月前半までは、適期に収穫した熱度が高い大江町産と、産地にこだわって食べてほしいですね」
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蜜入りりんごを果汁や干しりんごにして加えた惣菜
りんごサラダ大江町風
【材料…4人分】
リンゴ…1/2個、干りんご…5個、タマネギ…1個、パプリカ(黄色)…1/2個、ゆでたまご…2個、レタス…2〜3枚、<a>酢・オリーブオイル…各大さじ1、生・
砂糖…少々
【作り方】
- タマネギは薄切りにして水にさらし、ざるにあげる。
- リンゴは皮つきのままいちょう切りにし、パプリカはせん切り、干りんごはいちょう切り大に切る。
- ボウルに<1>と<2>を合わせ、<a>を合わせたドレッシングであえる。
- 器にレタスを敷いて<3>を盛りつけ、くし切りにしたゆでたまごを添える。
*干りんごの作り方は、皮をむいたリンゴの芯を取り除いて放射状に薄く切り、砂糖と同量の水をひたひたに加えて煮りんごをつくる。数日間、日に当てて干す。干しぶどうで代用してもおいしい。
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おみ漬け
【材料…4人分】
青菜の塩漬け…500g、ニンジン…30g、ダイコン…200g、しその実、ショウガ…各少々、
《a》
しょう油・りんご果汁…各小さじ2、みりん・ビートグラニュー糖・酢…各約小さじ1/3、焼酎…約小さじ1/2、塩…少々
【作り方】
- 青菜の塩漬けは細かく刻む。ニンジンはせん切り、ダイコンはいちょう切り、ショウガはみじん切りにする。
- <1>を合わせ、《a》のたれを加えて漬け込む。
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編集ワーカーズのもの・桜木幸子 写真・田嶋雅己
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