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「生活クラブ限定の酒を仕込む」と聞き、1月半ば、山形県の庄内地方・遊佐町にある蔵元・杉勇蕨岡(すぎいさみわらびおか)酒造場を訪れた。厳冬の時期に仕込んで春に搾る「遊佐来」は寒造りの純米酒。「種から育てた酒米でつくるので、丸1年がかりです」と、営業部長の佐藤義明さん。原料米「雪化粧」は自分の田んぽで栽培し、農法は生活クラブが取組む共同開発米と同じというこだわりの味に期待が募る。

  

   遊佐を知り尽くした蔵人たち

 遊佐町の田んぼは、11月から3月までおよそ半年、雪に埋もれて春の到来を待つ。
  だが、その冬の時期にだけ酒をつくるという地元、杉勇萩岡酒造場は、文字通り「寒造り」の蔵元である。
  「うちの酒は、利き酒では評価されにくいのですが、1升飲んでわかってもらえる味です。酒好きの人をターゲットに、さらっとした飲み口と柔らかなのどごしが個性です」
  そう話すのは、同社3代目の茨木高芳社長。年間500石、一升びんにして5万本分の酒を製造する。1923年の創業以来、小さな蔵元ならではのこだわりを持ち続けてきた。
  「代々、手作業による丁寧な酒造りに徹してきました。蔵人(くらびと)8人は、全員が遊佐のコメも気侯も知り尽くしている地元の人たちです。みんなで手間をかけ、満足できる作り方をしたい。大量生産ではその実感がもてないので、いま以上の量はつくりません。機械生産の酒よりは、間違いなくいいものができますから」
  古来、優れて酒に適した水が豊富にある地が、鈍酒の故郷。遊佐町の中でも鳥海山の麓寄りに位置する蕨岡は、その好例といえるだろう。
「蔵の地下には、鳥海山の氷河を源にする伏流水が豊富に流れ、それを汲み上げて使っています。酒米を硬く蒸し上げるのにも冷たい水がいいんですよ。一年中、水温が一定していて、酒造りに適した軟水です」(茨木社長)

    原料米へのこだわり

 こんな地元の作り手の気概と名水に加え、生活クラブだけに出荷する「遊佐来」は、他に類をみない特徴をもつ。
  それは原料米へのこだわりである。
「品種は山形の内陸地方のうるち米で、酒造りに適した『雪化粧』。生活クラブが取組む遊佐の共同開発米と同じ農法で、毎年、私がつくつています」
  と、胸を張るのは、同社営業部長の佐藤義明さん。
  JA庄内みどり遊佐支店の組合員でもある。共同開発米部会の発足当初からの生産者であり、「遊佐来」誕生
の経緯に詳しい。
  「初めてつくったのは1993年。地元のコメで酒をつくってみないかと、生活クラブから声がかかり、自分がつくれる範囲のコメでつくる”こだわりの酒”ならいいかなと思って。名前は組合員から公募し、たしか賞品は純米酒10本でした」
  農家の長男に生まれた佐藤さんは、22歳の時に蔵人として入社。コメ作りの一方で、27年間、酒造りに携わつてきた。営業に転じたのは、10年ほど前からと言う。
  「この蔵とは昔からの付き合いで、私の母と叔父も働いていました。今、妻と次男がここの蔵人です」
  昨夏の低温の影響が心配される「雪化粧」の作柄だが、佐藤さんは「今年度も1等米の粒揃い」と太鼓判を押す。
  それでも、実のところ一抹の不安があったと杜氏である佐藤敏郎製造部長は、こう打ち明ける。
  「佐藤さんの『雪化粧』がもしダメでも、ほかからコメを調達してつくるのはやめようと、みんなで決めていました」 佐藤さんは経験30年のコメ生産者の顔になって、その農法の一端をこう語る。
  「うちの田んぼには、土作りに地域内循環型農業の一環として平田牧場の堆杷を投入しています。朝は東風、夕方は西風が吹き、除草剤を1回まく程度で、農薬はほとんど使いません。何より、おいしいコメは適期に収穫することが大事。刈り遅れると粒が割れてしまうんですよ」

酒造り、コメ作りに共通する楽し

酒造りの時期、蔵元の朝は早い。茨木社長は6時に出社、場内を見て回る。室温は0℃以下、ほぼ外気と同じ寒さである。
  「一番大切なのは、発酵の管理ですね。蔵人が交代で泊まり込み、24時間体制で見守っています」
  8時半、直軽1.5mもの大釜のふたが開き、いよいよ「遊佐来」の仕込みが始まった。
  大釜で蒸し上げた原料米150kg分の蒸米をスコップですくい出し、麹室(こうじむろ)に運ぶ。
  湿度50%以下、温度35〜36℃に保たれた麹室に、コメの甘い香りがほのかに漂う。蒸米を素手で優しくかつ力強く撹拝し、布に包んで室に一晩おくと、真っ白な種麹になるという。数日後、麹、酒母(しゅぼ)、水を合わせて仕込んだもろみを、24日間かけて発酵させる。
  この蒸米の日から、ほほ40日後に搾る原酒が、生活クラブ組合員にしか手に入らない 「遊佐来」だ。
  「コメ作りには家族総出で育てる楽しさがあり、酒造りは、そのコメが酒になっていく過程を見ることができます。でも減反の話ばかりで、大変だという思いだけが伝わるのでは、子どもたちはコメ作りがイヤになるんじゃないかな」
  ものをつくる楽しさは、どちらも同じと語る佐藤さんは、農家の後継者難を、そう案じる。
  雪解け前の3月にはまた、ビニールハウスの苗床に「雪化粧」 の種をまく。
  「蔵人の息子が、土日に苗作りの段取りをしてくれる。そのコメが、酒になっていくのを間近に見て、『すごいな』と感嘆しています。コメ作りにも酒造りにも誇りを持ってくれるのが嬉しいですね」

提携生産者の素顔

 
 杉勇蕨岡酒造場でつくる酒は、社名を冠した清酒「杉勇」をはじめ、ほとんどが地元で消費されている。
 茨木社長は、「遊佐の酒造りは、中世からの山岳信仰やその文化と深く結びついており、うちの前身も、江戸時代から修験道と密接にかかわってきた酒蔵です。合資会社となって80年余。手作りのよさを守ってきました」と、創業の理念を語る。
  生活クラブ限定の「遊佐来」の生産量は、年間1万5000〜1万6000本。「ギフトでは大吟醸『遊佐の舞』や純米吟醸『鳥海燦燦』を取組んでいます。が、吟醸は添加するアルコールに遺伝子組み換えの問題もあるので、共同購入は純米酒『遊佐来』と美山錦を原料米とする特別純米酒『はなわらび』に絞っています。年末限りの『遊佐来』のしぽりたて原酒も好評です」(佐藤義明営業部長)

  消費材の特徴
地元産の良質な湾米とおいしい水でつくり、コメのおいしさを残した純米酒である。「飽きのこないさっぱりした味につくっています。べたべたしない後味も酒好きの人向き。12℃前後の冷酒か15〜20℃の常混で飲むのがおすすめです。コメ本来・の味わいが楽しめますよ」(佐藤敏郎製造部長)

酒盃を傾けながら温まる庄内の冬の風物詩

 鱈(たら)どんがら汁

【材料…4人分】
寒鱈(アラ、身、白子、肝)…800g、豆腐…1/2丁、ダイコン…1/4本、ニンジン…1本、長ネギ…1本、みついし昆布・酒・信州田舎みそ…適量、岩のり…適宜
【作り方】

  1. 鱈は水洗いして三枚におろし、アラ、白子、肝は適当な大きさに、身は一口大 に切る。
  2. <1>を熱湯にくぐらせる。
  3. ダイコン、ニンジンは、いちょう切りにし、さっとゆでる。
  4. 土鍋に<2>、<3>と水、酒、昆布を入れて強火にかけ、沸騰してきたら弱火にしてアクを取る。
  5. やっこに切った豆腐、白子、肝を加え、みそを溶き入れ、斜め切りした長ネギをのせて一煮立ちせる。
  6. 器に盛り、あれば岩のり(伊勢のりでもよい)をたっぷりとのせる。

ふろふき大根

【材料…4人分】
ダイコン…長さ12cm位、コメの研ぎ汁・だし汁(二番だしでよい)…適量、《A:塩・ しょう油(あれば白しょう油と薄口しょう油)…適量》、《柚子みそ:淡色みそこし(あれば西京みそ)…100g、砂糖…20g、おろしゆず…適量》
【作り方】

  1. ダイコンは厚めの輪切り(2.5〜3cm位)にし、皮をむいて面取りし、コメの研ぎ汁で下ゆでする。
  2. 別鍋にだし汁と<1>を入れて煮立て、<A>を好みの味付けより薄めの味に調えて加え、弱火にしてコトコト火にかけ、竹串がスッと通るくらいまで煮る。
  3. 柚子みその調味料を合わせて火にかけて練り、冷めてからおろしゆずを加える。
  4. <2>を器に盛り、<3>をかける。
    *料理とレシピは国民宿舎「とりみ荘」(逝佐町)の本間公輝料理長による。

編集ワーカーズのもの・桜木幸子   写真・田嶋雅己