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水産加工の会社は数あれど、無添加の「ひもの」作りを続けるところは数少ない。そうした中、無添加と国産魚にこだわって四半世紀になるのが(有)奥和である。

 

  「添加物を使ってくれないか」

新鮮な魚を開き、塩漬けにして乾燥させる。「開く」「漬ける」「干す」とその工程は簡単な「ひもの」だが、多くの人の手が掛かる。保存してお いてもおいしく食べられるという加工技術は、先人の知恵が生み出した賜物。本来、食品添加物とは無縁なはずだが、業界は、スーパーの台頭と歩調を合わせるように、食品添加物への依存を強めてきた。
「ひものは結局、原魚の良し悪しが決め手になる。だから私たちは、例えば真アジなら高品質の対馬沖産を使い、ロットごとにサンプリングして鮮度などをチェックしている。それをひものにして試食し、納得した原魚を使っています。他方、市販品の多くはそこまでしません。ランクが落ちる原魚が使われることもあり品質は劣る。それを補うために食品添加物を用いるのです。原魚のチェックは形と、鮮やかな色が出るか、添加物との相性を見るだけといってもいいかもしれません」
業界の現状をこう説明するのは奥村太郎さん(36歳)。(有)奥和の五代目に当たる。沼津で製品化された「ひもの」の大半は築地、横浜の中央卸売市場に流通していく。その市場の評価基準になるのが価格と”見た目”、色の鮮 やかさなどが取引の条件になるという。奥和は、販路拡大のために市場関係者に無添加の自社製品を送ったところ、こんな要求が返ってきたことがある。
「真アジで対馬沖が高品質なことは分かっている。だけど、色を鮮やかにするために添加物を使ってくれないか」と。「優先順位が違う」と、奥和がその申し出を断ったことは言うまでもない。
業界に変化の兆しがないわけではない。食品添加物の不正使用を始めとする、食品安全意識の高まりである。加工業者の二代目、三代目は、そうした消費者意識の変化に気付き始めているという。「しかし」と奥村社長は嘆息交じりにこう続ける。
「『ひもの』はバラ売りされるのが常ですから、売り切らなければ劣化していくし鮮度も落ちる。だから、添加物を使うのは当然という意識が定着しています。また、『無添加を』と考えても流通が受け入れない、だから使わざるを得ないのです。市場は見た目と価格がいかに安いかだけで判断しますから、同業者のほとんどは、自分たちのつくつた『ひもの』が、消費者にどう判断されているか知る由もありません。モノ作りに携わる身としては寂しいですよね」

    「モノ作りが好きな自分を発見

奥村社長が奥和に入社したのは25歳の時。それまで「長男だからといって跡を継ぐ」とは考えていなかった。地元高枚を卒業後、東京の大学に通う。一万で、レコーディングスタッフの仕事に就くことを実現すべく、音楽専門学枚にも通う。父親で現会長の奥村吉明さんからは「好きなようにやれ」とも言われていたからだ。
ところが、大学生時代の夏休み、吉明さんから「夏休みの間だけでも手伝ってくれないか」と持ちかけられる。繁忙期にもかかわらず、人手不足だったからである。魚を「開く」経験すらない。その仕事から一つひとつ、ベテラン従業員に教わった。
とはいえ、意識はアルバイト感覚だったと言う。そんな折、吉明さんが東京の下宿を訪ねてくる。話題は将来についてだった。
「『これからどうするんだ、お前が仕事をやるなら新工場をつくる。やらないなら母さんと二人で今のまま。 この場で決めろ』です。それまでは『好きにしていい』と言っていたのにと思いましたよ。
20歳前後は誰もが将来について思案する時期でしょう。一体、自分に何ができるのかと、何をしたいのかと、私も自問自答の日々でした。奥和の仕事を継ぐかについても、いつか決断しなければと考えていました」(奥村社長)
決断を促したのは「モノ作りが好「きな自分」を発見したこと。レコーディングスタッフも「ひもの作り」も手段こそ違え、「モノ作り」という目的で共通していたからである。そして、沼津、九州の魚市場で研修をし、入社したのが25歳だったことは前述の通り。

  「完成品」と満足せず!

創業が明治時代の奥和と生活クラブの提携は25年にも及ぶ。環境運動にかかわっていた奥村吉明さんと、元沼津市長で生活クラブ静岡初代理事長の井手敏彦さんとの結びつきが縁になった。
奥村さんが、原魚の見込み買い付け、見込み生産、そして原価が反映されない価格設定への不満や疑問、そして食べてくれる消費者の顔が、見えないことをもどかしく思っていた時期に重なった。食品添加物をすべて排除することが条件で、市場流通の取引きが枚数制をとっているのに対し、公平さを確保するために重量制にもした。
生活クラブとの提携が続く中で、魚市場で奥和の名前が定着していく。例えば真アジ。対馬沖の真アジが水揚げされる九州の魚市場では、「奥和は良質なものを買うという評価になっている」(奥村社長)と言う。
そのことが情報の豊富化につながり、さまざまな産地で「良質なら奥和が買ってくれる」と連鎖していくとも。これが、奥和の強味でもある。国内の漁獲高は年々減少傾向にある。気候の変動で漁獲水域や水揚げされる魚種も変わってきている。その中で、さまざまな魚種に取り組む必要がある。その際、欠かせないのが産地情報だからである。これが「この魚はひもの用」という固定観念の打破にもつながっていく。煮魚が一般的なオキカサゴやニシンのひものなどの新規開発がその典型だ。
「奥和の評価は生活クラブのみなさんが食べ続けてくれたことで実現できた、これに尽きます。交流会などを通して『作る手食べる手その手はひとつ』といつも痛感します。組合員の方々が見学に来られると、従業員にも声をかけてくれる。普通の工場ではあり得ないことで、従業員も『こういう人たちが食べてくれているんだ』と緊張感を持ちながら仕事をしています。
実は、原魚はその年によって脂の乗りなど質に差があるため、工程では微妙なサジ加減が求められます。ですから、完成品と満足はしていません。無添加にこだわり、『いつでも同じにおいしい』と言われるように挑戦を続けます」

「ひのも」のおいしい焼き方

奥村吉明会長、奥村太郎社長が異口同音に言う、おいしい「ひもの」の焼き方は「とにかく解凍しない」こと。ご承知のように、生活クラフの「開き」は冷凍で家庭に届く。市販品の多くは解凍状態で販売されているから、「解凍しなければ」と考えがちだ。ところが、「解凍しないことでよりおいしくなる」のだという。焼き方のコツは以下の通り。
冷凍のまま、先に皮目を8分通り焼いて裏返し、身はさっと焼く。火を通し過ぎるとパサつくから、これは禁物。七輪で備長炭を使ってあぶるのがもっともおいしいが、現代では無理かもしれない。家庭のガス台でも、直火で網焼きすれば、パサつきが少なくおいしく焼ける。グリルなら「開き」の上にアルミホイルをかぶせて蒸し焼きにした後、ホイルを外し、再度焼き色をつける程度に焼くと、身がフワツと焼けてパサつかないという。

    
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奥和のひもの直売店「和助」

「奥和のひものや生活クラブの他の消費材を含めて、どれだけ一般の人に受け入れられるか、また、勝負できるかを確かめたかった」(奥付吉明会長・写真右、左は次男の研さん)ことを目的に2年前、沼津市内オープンしたのが「和助」。国内産・無添加ひものの中から客が選んだものを備長炭で焼き、生活クラブのコメ、醤油、味噌などの調味料をベースにしたランチ(写真)も提供している。2階はギャラリーになっている。

文/本誌・内野裕 撮影/尾崎三朗