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2006年7月23日 日本経済新聞

  田舎暮らしを夢見るシニア、プロの農業、都会で学ぶ。体験農園や援農ボランティア

 田舎で土をいじり、自分が食べる野菜ぐらいはつくりたい、と夢見るシニアは少なくない。ただ知識や技術不足からいまひとつ自信が持てない人も多いだろう。そんな人に朗報がある。体験農園や援農ボランティア制度など都会にいながらにしてプロから指導を受けられる機会が増えてきた。

  「体験農園に通った三年間は本当に貴重な時間でした。それまで農業の知識はゼロ。くわの持ち方から野菜の管理方法などすべて教えてもらい、田舎生活の勇気をもらいました」というのは東京でサラリーマンだった宮崎隆雄さん(57)。七年前、都会生活に見切りをつけて群馬県松井田町に移り住んだ。今は1500平方メートルの畑で40種類の野菜を育てている。
  宮崎さんが学んだのが東京都練馬区にある体験農園のパイオニア、「風と緑の体験塾」だ。十年前に園主の加藤義松さん(52)が開いた。体験農園も市民農園の一種だが、一般的に畑を借りて自由に作物を作る農園とは異なる。農家が作付け計画に沿って栽培法を指導、入園者が植え付けから収穫まで体験する。プロのきめ細かな指導を受けられるため、たとえ初心者でも失敗が少ない。  
農家と思惑一致
  加藤農園では今は135人の入園者が一人30平方メートルの土地を担当している。講習会は年に約60回。加藤さんの丁寧な説明が一段落すると入園者から矢継ぎ早に質問が飛び交う。その光景はさながら「畑のカルチャーセンター」だ。
  料金は入園料と作物収穫代金を含めて年間3万1千円。「野菜は家族では食べきれないほど。こんなに農業
が楽しいとは思っていなかった。体力にさえ自信がつけば私も田舎で自給自足したいほど」。広告業界で働く斉藤光浩さん(50)も田舎暮らしの予備軍だ。
  体験農園は農家側からみると厳しい経営環境を乗り切る生き残り策のひとつ。今では練馬区内で11、東京都では35、さらに首都圏を中心に広がっている。いずれもシニアを中心に入園希望者が殺到、競争率は数倍を超える。
  農家から専門技術を教わることができるもうひとつの制度が援農ボランティアだ。人手が欲しい都市近郊の農家と、都市農業に関心を持ったり、土に触れたい都会人の思惑が一致した。最近では行政や農協、非営利組織(NPO)がその出合いをサポートしている。
  謝礼金で責任感
  四年前発足した東京都町内市のNPO法人「たがやす」。「ナス収穫の人手が足らない」という契約農家の悩みに生活クラブ生活協同組合の組合員が手を貸したのが活動の始まり。今では会員は80人、会員農家は11軒になった。
  援農ボランティアの仕事は草取り、苗植え、堆肥(たいひ)散布など様々。援農ボランティアといえば無償が多いが、「たがやす」では農家から一時間当たり460円の謝礼金が渡される。わずかな額だが、会員には責任感が生まれ、「お客様扱いしなくてすむ」と農家側にも好評だ。
  昨年春、援農ボランティア育成のため、町田市内に研修農園を開いた。広さは約三千平方メートル。今年も公募
で集まった15人が地元農家のプロから栽培技術を学んでいる。
  NPO発足と同時に活動を始めた航空会社に勤める永松文夫さん(59)は土曜日はスタッフとして研修農園に顔を出し、日曜日は朝早くから援農ボランティアと週末は”農業づけ”。
  「都市農業を支援したいということもありましたが、土いじりが好きで農家の人から専門知織を学べると思ったから。実際、ヒントになることはいっぱいあります。これでお金がもらえるなんて申し訳ない」
  「たがやす」と同様、援農ボランティア制度を実施している団体では養成講座を設けているところが多い。東京都国分寺市では「市民農業大学」、神奈川県川崎市では「農の寺子屋」、同横浜市では「市民大学講座」といった具合だ。いずれも地元の農家に指導を依頼。専門知識を得るだけでも応募してみる価値がありそうだ。
  さらにもっと探い技術を取得したいという人のために東京と大阪で新たに農業研修制度が誕生した。東京都は今年から八王子市の三宅島げんき農場跡地で「実践農業セミナー」を始めた。定員は70人で期間は二年。市民農園や援農ボランティアなど農作業経験のある人が対象だ。
  大阪府でも本格的に農業を始めたいという住民を対象に羽曳野市の食とみどりの総合技術センター農業大学校で昨年から「短期プロ養成講座」を始めた。集中コースは一年で定員は40人。東京、大阪ともに反響は大きく、予想をはるかに上回る応募者を集めた。
  JA総合研究所の桜井勇常務理事は「都市農業を守るために農家も行政もNPO法人も知恵をしぼっている。地域コミュニティーの核になりつつある体験農園も援農ボランティアも都市部でますます広がっていくと思う。土に親しみたい、田舎暮らしをしたいという都会の人にとってはノウハウ取得のチャンスだろう」と話している。
  (編集委員 芦田富雄)